- 『i, ROBOT』

2004/10/03/Sun.『i, ROBOT』

応用科学ってのはスゲエな、と思う T です。こんばんは。

俺が学んでいるのは理学であって、つまりは基礎科学である。たまに応用科学の人の話を聞いたり本を読んだりすると、その考え方の違いに色々と思うこともある。

映画日記

『i, ROBOT』を観てきた。メモ代わりに、ストーリーを要約しておく。ロボット工学の権威であるラニング博士が密室から飛び降り自殺した。ウィル・スミス演じるスプーナー刑事は、これは自殺ではないと疑うのだが、部屋の中にいたのは、博士以外はロボットが 1体。ロボットは「ロボット三原則」によって、その安全性が保証されている。

第1条: ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第2条: ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第1条に反する場合は、この限りではない。

第3条: ロボットは、前掲第1条および第2条に反する惧(おそ)れのないかぎり、自己を守らなければならない。

(アイザック・アシモフ『われはロボット』/小尾芙佐・訳)

一見完璧に見える三原則だが、そのロジックに穴があるのではないか(だからロボットは人間に危害を加えたのではないか)、というのが主題である。ネタバレになるので結末は書かないが、『i, ROBOT』における三原則の解釈は納得のいくものであった。満足。

通常、こういった探偵小説的なストーリーは退屈になりがちだが、『i, ROBOT』では随所にアクション・シーンが盛り込まれており、観ていて飽きない。特に、CG で表現されたロボット達は一見の価値がある。恐らく、フェイシャル・モーションでも使っているのだろうが、変にリアルなロボットの表情は、違和感を通り越して不気味ですらあった。ロボットの動きが、やたらとスパイダーマンに似ているのも気になったけれど。

ロボット工学

『i, ROBOT』の舞台は 2035年である。果たしてあと30年で、映画のようなロボットができるだろうか。さすがに無理だと思う。ロボット工学と一口に言うが、あれは総合工学(どころか、総合科学と言っても良い)とでも言うべきもので、ちょっと考えただけでも卒倒しそうなほどのテクノロジーが必要とされる。

ロボットは機械体だ。であるから、機械工学、材料工学などの進歩が必須である。『i, ROBOT』に登場する NS5 というロボットは、人間の 4倍の力を持つという。そんな強力なモーターを、指の関節に組み込めるまでに小型化する必要がある。そんな負荷に耐えられ、メンテナンスが容易で、かつ大量生産も前提とした材質も検討しなければならない。動力の確保も大きな問題だ。

視覚も備えなければならない。ロボットの目として、高解像度の映像を撮影できるカメラがいる。ただ撮っただけでは仕方がない。画像解析により、その映像が持つ「意味」を、ロボットが理解できる形に翻訳しなければならない。しかも処理するのは動画で、1枚ものの画像ではない。タイムラインに沿ったシーケンシャルな解析が必要である。動画上に存在する要素は複数あり、時間的にズレたり、入れ子状になって存在する。それらを解析するための、並列に走るプログラムが要求される。

視覚ばかりでなく、聴覚にも同様の機能が求められる。音声解析、言語解析、過去の文脈との接続、etc...。これらをリアルタイムで行うために、高速の演算装置や記憶装置もいる。かなりキツい。現在の認知科学、ソフトウェア工学、情報工学は、まだまだこんな地点まで到達していない。

思い付くものはまだまだあるが……それにしても、果てしなく道は遠い。しかし、ロボット研究者(特に最先端を走っている日本の研究者達)には頑張ってほしいものである。