- 『邪馬台国の秘密』高木彬光

2007/01/22/Mon.『邪馬台国の秘密』高木彬光

『成吉思汗の秘密』に続き、『古代天皇の秘密』へつながる、名探偵・神津恭介のベッド・ディテクティブ・シリーズ第2弾。

主要なテーマは「邪馬台国はどこにあるか」である。急性肝炎で入院した神津恭介と、友人の作家・松下研三は、『魏志倭人伝』の記述を元に推理を展開していく。彼らが設定したルールは、

  1. 『魏志倭人伝』の重要部分には、いっさい改訂を加えないこと、万一改訂を必要とするときは、万人が納得できるだけの理論を大前提として採用すること。
  2. 古い地名を持ち出して、勝手気ままに、原文の地名や国名にあてはめないこと。

である。これまでにも膨大な数の邪馬台国論が展開されたが、いずれもどこかに牽強付会な「こじつけ」があり、それがいずれの説も決定的とならない一番の原因となっていた。推理作家である高木は、そのような論理展開がまず受け付けられなかったようで、そのために神津と松下に厳しい制約を課したと思われる。

『邪馬台国推理行』の「はじめに」で高木彬光は、"今まで出された研究・著書の大部分は、邪馬台国はここだ——と断言する途中の過程で説得力を欠いている" とし、"推理小説にたとえれば、「犯人はたしかにこの人物だ」と指摘はしているのだが、なぜその人物が犯人か——という途中の推理を省略したり、あったとしても、その推理に説得力を欠いているようなものである" と述べていた。

(「解題」山前譲)

そういうわけで、本書で作者、あるいは作中の神津がこだわっているのは「アプローチの独自性」であり、決して「これまで提示されなかった新たな邪馬台国の比定地」を狙っているわけではない。作者による邪馬台国の比定地をここで明かすようなことはしないが、比定地自体は、過去にも指摘された土地ではある。

しかし、『魏志倭人伝』の記述を恣意的に改変することなく、また、自然科学的なデータを織り込むなど、推理の過程はスリリングで興味深い。「高木説」を支持する学者も実際にいるという。最後に明かされる「卑弥呼の正体」も、読者を頷かせる説得力を持つ。

高木は本書を執筆する上でかなりの取材も行ったようで、その様子は巻末の「邪馬台国はいずこに」で述べられている。解説は、『邪馬台国はどこですか?』の鯨統一郎