- 『不完全性定理』クルト・ゲーデル

2007/01/27/Sat.『不完全性定理』クルト・ゲーデル

訳と解説は林晋、八杉満利子。本書は 2部構成で、第1部がゲーデルの不完全性定理の論文 (約50頁)、第2部が解説 (約230頁) となっている。

「まえがき」にも書かれてあるが、高等数学の教育を受けていない人間が、ゲーデルの原論文を数学的に正しく理解するのはおよそ不可能である。私も字面を追ってみたけれど、せいぜいが、「野崎昭弘『不完全性定理』のどこそこで書かれていたのはこの部分だな」と思うくらいである。難しい、とかいう以前の話である。

この論文を理解できた人間が世界に何人もいたこと、そしてその内容が非常に重要であると判断されたこと、一般人が何となくわかる程度に書き下された解説書が世に出回っていること、むしろこれらの事実に私は驚く。人類の「知」ってのはスゴいな、という感想を素直に覚える。

私が熱心に読んだのは本書第2部の解説である。筆者らは、この解説を書くのに 10年の歳月を費やしたという。ゲーデルの不完全性定理の研究は、ヒルベルトが主導した数学の形式化、いわゆるヒルベルト・プログラムの一環として行われた。皮肉にも、不完全性定理がヒルベルト・プログラムの不可能性を証明してしまう形になるのだが、とにかくもそういう背景がある。その背景を、具体的にはヒルベルトの研究を筆者らは丹念に追跡する。解説は、ほとんどヒルベルト研究といっても良い。おかげで、ゲーデル当時、数学の何が問題となっていたか、その問題はいかにして顕現したのか、ということがよくわかる。

ヒルベルトについては野崎昭弘『不完全性定理』やダフィット・ヒルベルト『幾何学基礎論』でも触れたので繰り返さない。解説の後半では、不完全性定理を巡って、ゲーデルとともにフォン・ノイマンやアラン・チューリングが活躍する。彼らが電子計算機理論の開祖であることは、コンピュータに興味のある人なら御存知だろう。いずれ彼らについても勉強しようと思っている。