- 『ローマ人の物語 賢帝の世紀』塩野七生

2006/09/06/Wed.『ローマ人の物語 賢帝の世紀』塩野七生

『ローマ人の物語』単行本第IX巻に相当する、文庫版第24〜26巻。『ローマ人の物語 危機と克服』の続刊である。

ローマ初の属州出身皇帝・トライアヌスを迎えたローマ帝国は、彼の在世中に最大版図を達成するに至る。トライアヌス帝時代における唯一ともいえる戦争はダキア戦役であり、これに勝利することによってローマはその土地を得た。これが最大版図ということは、よく考えれば後のローマには敗北しかないことになる。本書に描かれている時代はローマ人自らが「黄金の世紀」、後世の歴史家が「五賢帝時代」と呼ぶ輝かしい時代ではあったが、それだけに何だか物悲しくもある。もっとも、これは俺が個人的に感じただけのことで、そのような描写が本書にあるわけではない。むしろ、慎重に避けられていると思えるほどだ。俺の印象が的中しているかどうかは、続刊を読めばわかるのであろうか。

公共事業に熱心であったトライアヌス帝の死後、皇帝の座を継いだのがハドリアヌスである。彼は「疲れを知らない働き者」とまでいわれる熱心さで、広大なローマ帝国の全辺境を視察巡行した。在位期間の大半を費やしたその旅は単なる視察ではなく、皇帝自らが現地に赴いての、ローマ帝国の「再構築」であった。彼により、ローマの平和を守るシステムは徹底的に効率化され最適化された。その傍ら、ギリシア趣味のあったハドリアヌス帝は、パンテオンなどのギリシア風建築物を各地に残している。

ハドリアヌス帝の後を継いだのは、アントニヌス・ピウスであった。トライアヌス帝、ハドリアヌス帝によって盤石にされたパクス・ロマーナを維持したこの皇帝に目立った業績はなく、本書で割かれる紙面も少ない。我が国の歴史でも、その期間に比して、江戸時代 (特に中期) の叙述は少ない。それだけ平和であったのだろう。