- 『死刑はこうして執行される』村野薫

2006/09/07/Thu.『死刑はこうして執行される』村野薫

タイトルは週刊誌的だが、内容は非常に硬派である。

死刑制度反対派には 2種類あるように俺には思える。「人間が人間に死刑を宣告することは道義的に許されない」とする「絶対的反対派」と、「冤罪の場合には取り返しがつかない」という「相対的反対派」である。相対的反対において問題になるのは、実は死刑問題ではなくて裁判・司法制度である。実際、世界的潮流における死刑反対の論調は「絶対反対」のようだ。

さて、著者はこの「絶対反対派」であることが「あとがき」において語られているが、その事実は「あとがき」を読むまでわからない。本文で、著者は自らの信条を一切表明せず、淡々と死刑の歴史、裁判制度の実体、死刑執行の実際、刑務所の体制を、豊富な資料と信頼できる統計に基づいて記述する。そこから、例えば「少年犯罪は戦後、減少の一途を辿っている」「高等裁判所によって死刑の判決率が異なる」といった、意外なデータが導かれる。著者の徹底した姿勢は、とにかく眼前に現在の日本の「死刑」をゴロリと投げ出すという目的を完璧に達している。

死刑反対はにも賛成派にも信頼され得る、一級の死刑研究書だと思う。