- Book Review 2011/05

2011/05/22/Sun.

山下篤子・訳。原題は "Phantoms in the Brain: Probing the Mysteries of the Human Mind"

著者は神経科学者で、幻肢 phantom limb が発生する mechanism の解明を行った。その経緯を述べた第二章の描写は劇的である。

私はトム[最近腕を切断した患者。目隠しをされている]の頬を綿棒でこすり、「どうですか」とたずねた。

「頬を触られているのを感じます」

「ほかには?」

「おかしいことですが、なくなった親指にも、つまり幻の親指にも触られている感じがします」

私は綿棒を上唇に移動した。「ここはどうですか?」

「人さし指を触られている感じがします。それと上唇を」

「本当ですか? 確かに?」

「本当です。両方とも感じます」

「では、これはどうですか?」私はトムの下顎をこすった。

「なくなった小指です」

[略]

ペンフィールドの地図をよく見ると、手の領域の下には顔面領域が、上には上腕と肩の領域がある。切断のあとトムの手からの情報入力がとだえると、顔面からでている感覚神経の繊維(通常は皮質の顔面領域のみを活性化させる)が、空いた手の領分に侵入し、その部位のニューロンを活性化するようになった。私がトムの顔に触れたとき、幻の手からの感覚も同時に生じたのはこのためだ。

(第二章「どこをかけばいいかがわかる」、[]内引用者)

本書の内容は豊穰で、幻肢の他にも、視覚像の「書き込み」、鏡失認、否認、笑いなど多岐に渡る。これらの興味深い現象について、これまでの臨床的理解に加えて著者独特の考察が展開されており、読者は脳の高度な機能について楽しく学ぶことができる。大変面白い。

巻末には詳細な原注と多数の参考文献が付されており、さらに専門的な知識への手掛かりも提供されている。

2011/05/07/Sat.

大仰なタイトルである。数学者の列伝であるが、伝記的にも数学的にも熟読するほどの記載はない。気軽に読めるとはいえる。

採り上げられている数学者その他は以下の通り。

アーベルの論文の引用が心に残った。

「解法がないというならば、何年かかって探しても見つかるものではない。何かをつかもうと思うならば、他の道を探さねばならない。あるかないかがわかりもしない関係を探すよりも、このような関係があり得るかどうかを研究しなければならない。問題がこんな形で提出されると、その表現の中に回答が芽ばえているし、進むべき道も示されている」

(第6章「神々の愛でし人々 アーベルとガロア、数学の夢」「5次方程式は解けない!?」)