- 『龍臥亭幻想』島田荘司

2007/11/05/Mon.『龍臥亭幻想』島田荘司

ある時期から島田荘司御大の文章は非常に軽くなっているだが、最近はとみに違和感を覚えることが多い。本作に至っては、冒頭を読む限り「これはマジで下手なのでは……」とまで思ってしまった。文章がいやに説明的であったり、視点が不安定であったりといった点に引っかかって、どうも作品世界に入り込めない。

もちろん、島田御大はそんなことに躊躇することなくガンガンと物語を進める。最終的には読み進めてしまうわけだが、御大一流の幻想がツルツルと滑っていくような感じで、彼が意図しているであろう不思議や恐怖が一向に迫ってこない。余計な挿話や軽過ぎる会話が多いのも原因であるように思う。面白いといえば面白いのだが、それが物語全体に協調性をもって奉仕しているのかといえば疑問である。そもそも、「龍臥亭」である必要性というのもよくわからない。

人物描写はさすがに島田御大で、特に最後で明かされる犯人の行動には熱いものを感じる。以前に「最近の島田御大は『推理』というものを放棄している」と書いたが、これは本作でも同様。真相は明らかにされるが、推理によってではない。また、作中に登場する不可解な現象の 1つは最後まで説明されない。これは、推理小説という合理的な世界に不思議を不思議のまま残すという、一昔前に流行った手法を狙ったものなのだろうか。それとも御大がエピソードの回収を忘れたに過ぎないのか。とにかく中途半端で、読後に余韻というよりは、むしろ禍根を残しているように感じる。

意図的なものなのか、はたまた単なるボケなのか。にわかに判断できないのが 21世紀御大なのである。