爆笑問題の「原論」シリーズは、太田と田中の会話を起こしたような体裁を採っているが、全て太田が一人で書いたものである。しかしながら、ライブ感というか臨場感というか、とにかく勢いがある。
個人的に太田の「いかにも」な文章は嫌いなのだが、「原論」シリーズだけは本当に面白いと思う。本書の序文である「ごあいさつ」も秀逸だった。
アメリカでは、ヒゲを生やしていた無関係な男が、テロリストの仲間とされて、殺された。
人間の DNA のほとんどが解読されたというニュースが流れた二十一世紀初頭、我々が人を見分ける唯一の手がかりとしたのは、"ヒゲを生やしているか、生やしていないか" だった。
(中略)
そのうち、タリバンから解放された人々が、嬉々としてヒゲを剃っている映像が世界中に流されると我々は安心してこう思った。
「やっぱり違いはヒゲだったんだ」
そして我々は、彼らにこう言ってあげたくなった。
「もう一度 "ブラウン" で剃ってごらん。まだヒゲはたくさん残っているハズだよ」
(「ごあいさつ」)
「日本原論」は基本的に時事ネタである。本書の白眉は、「ごあいさつ」でも引用した、アメリカにおける 9・11 テロを扱った回だろう。
田中——しかし今回の事件で世界中が感じたのが、自爆テロの恐ろしさだよね。
太田——確かに、自分も死んじゃうのに、なんで平気なんだろうな。
田中——平気というよりもむしろそれを望んでるんだよね。彼らにとってこれは聖戦で、聖戦で死ぬことがいちばんの夢なんだよな。だから旅客機で貿易センタービルに突っ込むなんていうのは、彼らにとっては最高の喜びなんだな。
太田——まさに、アメリカンドリームってやつだな。
田中——全然違うよ!
太田——テロリストの間では、ニューヨークは "夢がかなう街" って呼ばれてるらしいよ。
田中——いい加減にしろ!
(「『米同時多発テロ』の巻」)
これは色んな意味で、マジでスゴいと思うよ。