細胞死 (cell death) は、ネクローシス (necrosis; 細胞壊死) とアポトーシス (apoptosis; 細胞自死) に大別される。
ネクローシスにおいて、細胞は膨張・破裂し、内容物を周囲に流出させ、炎症反応を引き起こす。
アポトーシスは血液細胞や肝細胞といった再生系細胞に見られる細胞死であり、神経細胞や心筋細胞といった非再生系細胞の生理的細胞死は、アポビオーシス (apobiosis; 寿死) とも呼ばれる。
アポトーシスはプログラム細胞死 (programmed cell death) とも呼ばれる、遺伝的に制御された現象である。
アポトーシスにおいて、細胞は収縮し、クロマチンは核膜周辺に凝縮する。核の DNA は断片化される。微絨毛の消失によって細胞表面が平滑化され、膜表面のマーカーが変化する。アポトーシスを引き起こした細胞も断片化され、アポトーシス小体となる。これを認識した隣接細胞やマクロファージは、アポトーシス細胞を迅速に貪食し、炎症反応の発生を防ぐ。
アポトーシスの機構は全ての動物細胞で共通している。アポトーシスを起こすには、新規の RNA およびタンパク質の合成が必要とされる場合が多く、反応過程は ATP 依存的である。アポトーシスは不可逆反応でもある。
細胞内には、不活性型プロカスパーゼ (procaspase) が存在する。これが活性型カスパーゼ (caspase) と変化することによってタンパク質の分解が連鎖的に発生し、アポトーシスが誘導される。カスパーゼはシステイン・プロテアーゼの一種である。
アダプタータンパク質 (adaptor protein) によって、開始プロカスパーゼ (initiator procaspase) と呼ばれる複数のプロカスパーゼは、複合体または凝集体を形成する。わずかなプロテアーゼ活性を持つ開始プロカスパーゼが、複合体形成時にたがいを切断して活性化カスパーゼを生成する、もしくは、凝集がプロカスパーゼの構造変化を引き起こして活性化カスパーゼとなる。活性化カスパーゼは下流のプロカスパーゼを切断し、連鎖的に活性化カスパーゼを増やす。最終的に、カスパーゼは細胞質タンパク質や核ラミンの切断を開始し、アポトーシスが引き起こされる(カスパーゼ連鎖)。
カスパーゼ連鎖の発生には、様々なパターンがある。細胞表面の受容体である Fas は、Fas リガンドと結合することによって活性化する。活性化して集合した Fas は、それに結合する細胞内アダプタータンパク質を集めてプロカスパーゼ-8 に結合させ、カスパーゼ連鎖を開始させる。
損傷したミトコンドリアから放出されたシトクロム c (cytochrome c) は、アダプタータンパク質 Apaf-1 と結合し、やはりプロカスパーゼ-9 を凝集させて活性化させる。この経路は、ほとんどのアポトーシスにおいて、カスパーゼ連鎖の開始、加速、増幅に使われている。DNA 損傷によるアポトーシスの場合、ミトコンドリアからシトクロム c の放出促進タンパク質 (Bcl-2 ファミリー) と、その遺伝子の転写を活性化する p53 が必要とされる。
主なカスパーゼを下の表にまとめる。
Family | Caspase | Other Name | Recognition | Target (Truncation site) |
---|---|---|---|---|
caspase-1 subfamily |
caspase-1 | ICE | WEHD | pro IL-1 (FEAD/G, YVHD/A), procaspase-4 |
caspase-4 | ICErel-II, TX, ICH-2 | WEHD | ||
caspase-5 | ICErel-III, TY | WEHD | ||
caspase-2 subfamily |
caspase-2 | ICH-1 | DEHD | PARP (DEVD/G) |
caspase-9 | ICE-LAP6, Mch6 | LEHD | PARP, procaspase-3 | |
caspase-3 subfamily |
caspase-3 | CPP32, Yama | DEVD | PARP, SREBP (DEPD/S), U1snRNP (DGPD/G), lamin B, D4-GDI (DELD/S), DNA-PK (DEVD/N), DFF (DETD/S, DAVD/T), actin (ELPD/G) ?, PKCδ (DMQD/N) ? |
caspase-7 | Mch3, ICE-LAP3, CMH-1 | DEVD | PARP, procaspase-6 | |
caspase-6 | Mch2 | VEHD | lamin A (VEID/N) | |
caspase-8 | FLICE, MACH, Mch5 | LETD | procaspase-3, Bid | |
caspase-10 | Mch4 | LEXD |
Bcl-2 ファミリータンパク質である Bcl-2 や Bcl-XL は、ミトコンドリアからのシトクロム c の放出を部分的に阻止してアポトーシスを阻害する。
逆に、Bad は、ファミリーの内、アポトーシスを阻害するタンパク質と結合して不活性化させ、プロカスパーゼの活性化とアポトーシスを促進する。また、Bax や Bak は、ミトコンドリアからのシトクロム c 放出を促進する刺激因子である。Bax と Bak は、Bid などの Bcl-2 ファミリーのアポトーシス促進因子によって活性化される。
IAP (inhibitor of apoptosis) ファミリーは、プロカスパーゼもしくはカスパーゼに結合してその活性を抑制する。ミトコンドリアは、 Apaf-1 活性化のためにシトクロム c を放出するとき、同時に IAP 阻止タンパク質も放出することによってアポトーシスを促進する。