- 血と肉と骨

2013/01/24/Thu.血と肉と骨

筋肉(心筋、骨格筋、平滑筋)の相違を考えるなら、血管系との関係にも留意すべきだろう、ということを以前に書いた。私は循環器の研究に携わっていたので、心筋と他の細胞(血管、血球、脂肪、間葉系細胞など)の繋がりについては、ある程度の知識がある。骨格筋に関しては総説を読んだ程度だが、心筋の知見を元にイメージできる部分も多い。

最近、自分は骨について何も知らないことに気付いた。文字通り、骨格筋は骨と結び付いている。例えば、進行性骨化性線維異形成症という病気では、筋肉が骨化する。また、心筋や骨格筋に分化する様々な体性幹細胞は、骨にも分化することがよく知られている。もっと骨のことを勉強するべきかもしれない。

以下、雑多でまとまりのない考えを書く。

ある細胞を骨格筋に分化させる、ということは、ある細胞を骨格筋以外に分化させない、ということでもある。しかしこれはあくまで原理的な話であって、現在の技術は、ある細胞の集団の一部を目的の細胞に分化させる、その効率を高めるという水準に留まっている。

抑制因子のカクテルによって、逆説的に特定の細胞への分化を促進する、という発想をすることは可能である。もっとも、具体的なアイデアはないし、現実はそれほど単純でもないだろう。促進・抑制は相対的なものである。ある現象の促進は、すなわち別の現象の抑制である。促進と抑制は別物ではなく、表裏一体なのだといえる。

もう一つ、単純にして素朴な疑問がある。細胞の系統によって、分化のしやすさが異なるのはなぜか。

ES/iPS 細胞は全ての細胞種に分化することができるが、それぞれの分化効率は一様ではない。例えば神経細胞は、万能性幹細胞をただ培養しているだけでも得ることができる。心筋も、かなり分化しやすい系列である。一方、MyoD の強烈な印象とは裏腹に、万能性幹細胞から骨格筋への分化は心筋よりも難しい。膵臓などの細胞は、いまだに悪戦苦闘が続いている。

上記の考え方を援用すれば、膵臓細胞への困難な分化は、膵臓以外の細胞への容易な分化の裏返しだといえる。また、分化しにくい細胞は、分化しやすい細胞よりもエネルギーの高い状態にある、と考えることもできる(「細胞の『状態』」)。

分化については、発生という時間依存的な現象も加味して考察する必要がある。発生においては、細胞や組織が出現する「順番」が厳密に定まっている。例えば、心筋は骨格筋よりも「先に」出現する。骨格筋に比べて心筋への分化が容易なのは、このような時間的要請の反映ではないか。また、発生的に後から出現する細胞の周囲には、先に出現した細胞が既に存在するということも、当然考慮せねばなるまい。