- 人工臓器と再生医療

2012/09/16/Sun.人工臓器と再生医療

自宅のコンピュータ四台(Mac, Win 各二台)のデータを整理した。留学先にはデュアルブート化した Mac を持っていくつもりで、その下準備である。他のデバイスとの連携などを含め、具体的な構成はまだ決まっていないが、よく考えて、仕事やサイト運営を楽しく快適にこなせるようにしたい。

話は変わる。

ヒトの神経系と電子機器を接続する研究が盛んだが、portable device のもう一つの桎梏である電源には大きな進展がない。画期的な電池革命が起きなければ、wearable computer も結局は画餅に帰す。そこで思うのは、ヒトの代謝系から電力を得られれば好都合だということである。グルコース電池や ATP 電池が実用化されれば非常に面白い(グルコース電池は既に試作品が存在する)。食べ過ぎても余剰のエネルギーは充電に回されるから太ることもない。

グルコースや ATP を有効に活用できるのはやはり細胞である。したがって、この路線の最終目標の一つは、細胞で機械を作ることとなる。

私は、留学先で再生の研究をするつもりでいる。その旨を上司に伝えたら、「これだけ人工臓器の研究が進んでいるのに、今さら再生か」と言われた。愚かな意見である。人工臓器の発展は目を見張るばかりだが、巨視的な視点でみれば、それでもなお過渡期の技術だと言わざるを得ない。

初期の人工臓器は無機的な素材で作られていた。あまりにも細胞と異なるこれらの物質は、体内で深刻な拒絶反応や炎症を惹起する。しかし、徐々に材料は改善されていき、今では多様な biomaterial が人工臓器に使用されている。この進歩をさらに敷衍すれば、人工合成された biomaterial よりも有機培養された生体素材の方が、そして、生体素材よりも生きた細胞の方が優れているから利用しよう、となるはずである。細胞で人工臓器を作る——。これは畢竟、再生医療そのものである。

思想や手法に違いはあっても、人工臓器と再生・発生の研究は、ともに同じ頂きを目指しこそすれ、決して対立するものではない。だからこそ、義手義足に代表される機械-生体接合の研究も注目を浴びているのである。つい一週間前にも、ゴキブリをリモートコントロールする技術が大きく報道された。工学と生物学との交流は、今後さらに深まるだろう。

これらの潮流は、生物機械論に対する巨大な検証実験でもある。生物は機械か否か。これは人間存在の根幹に関わる哲学的命題である。自分の専門分野に関わらず、常に着目しておくべき動向であろう。