- 口語体という名の文語

2012/06/08/Fri.口語体という名の文語

ここ数日は総合科学技術会議の様々な議事録を読んでいた。我が国の科学技術政策がどのように決定されているのか——という職業上の関心があってのことだが、それだけではない魅力が議事録にはある。すなわち、単純に読み物として面白いのである。これは座談形式を採った口語体の力に因るところが大きい。実際の会議を傍聴しても、恐らくは退屈で、議事録ほど面白くはないだろう。

一般に口語体というが、これは発言されたそのままが文章に起こされたものではない。人の話を意識して聞けばわかるが、現実に発せられる言葉は至極いい加減なものである。「えー」「あー」などが頻繁に挿入され、特に日本語では語尾が曖昧になり、言い間違い、繰り返し、「それ」「あれ」といった代名詞の頻用、言語ではなくジェスチャーでの説明などなど、文章では削除されるノイズが非常に多い。一方で発話は、間、速度、声色、声量、アクセント、イントネーション、表情、視線といった、文章では再現困難な情報を豊富に含んでもいる。

口語体はこれらを取捨選択したものであって、実際に話される口語とは全く別物である。口語体という名の文語である、と理解した方が正確であろう。そして、口語体および座談形式特有の文芸的魅力というものが、確実に存在する。

会議での発言を文章に起こすのは大変であろうが、担当官僚諸氏におかれては、議事要旨ではなく、再現度の高い「議事録」の作成を是非ともお願いしたいところである。

それにしても、総理の以下の発言はいかがなものかと思う。

【野田総理大臣】

今日も議員の皆様におかれましては活発な御議論をいただき、御礼申し上げる。最後に本庶議員から iPS 細胞等の研究について御紹介をいただいた。ちょうど昨日飲みすぎて肝臓が心配になっており、これは本当に画期的だなと改めて思っている。我が国の研究が正しくフロンティアを切り拓いていくという意味で実例として大いに意を強くした次第である。

(平成二十三年十二月十五日 第101回総合科学技術会議議事要旨

私はこれを読み、大いに意を弱くした次第である。