- 血管はじめました

2011/04/23/Sat.血管はじめました

柳田充弘先生の「コレステロールの話」がわかりやすく面白い。循環器の患者に読んでほしい文章である。ちなみに、「肝臓を標的にしてアセチル CoA から作る酵素を阻害」する薬はスタチンといって、我が国(三共)で開発された。スタチンが医学・医療に与えた impact は計り知れない。

新しい研究室でのテーマに関して少し書く。

今度のラボでは主に血管を研究する。これまで研究してきた心臓とは生理的に関係が深いが、手法や題材には大きな違いがある。視野を深めつつ広げることができればと思っている。

柳田先生は、「高コレステロール血管症では本来大切な役割をする白血球が狂ってしまってとんでもない行動にでるので血管がつぶれる」と書いておられるが、もちろん血球だけではなく血管にも異常が生じる。その結果、血管内皮と血球の接着が起こり、血管や周囲の組織で炎症が起きる。代表例が動脈硬化である。

動脈硬化が悪化すると血流が遮断される。冠動脈が狭窄ないし梗塞すれば虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳の血管が詰まれば脳梗塞が起こり、脚の血流が途絶えれば「足が腐る」(下肢閉塞性動脈硬化症[ASO])。心臓のラボでは心筋梗塞を、脳のラボでは脳梗塞を一所懸命に研究するわけだが、血管から見れば、これらの疾患は同じ症状の別な顕れともいえる。

(スタチンは血中コレステロール濃度を低下させることで、上記の疾患の発症も抑制する)

四月から私が行っているのは、血球と血管内皮の接着を in vivo かつ real-time で観察することである。この三週間で実験系を構築し、定量化するところまで漕ぎ着けた。動物実験の経験が豊富というわけでもなく、試行錯誤も多いが、技術の幅を拡げられるよう努力したい。毎日顕微鏡を覗いているが、微小血管が組織中を隈なく行き渡り、大都市の交通網さながらに血球が走行する様からは、目に見えぬ美しい秩序を感じ取ることができる。