- Cultured Neonatal Rat Cardiomyocytes

2009/05/25/Mon.Cultured Neonatal Rat Cardiomyocytes

哺乳類の primary culture やサクリファイスは肉体的にも精神的にも疲れる T です。こんばんは。

研究日記

心筋細胞の preparation を行った。心筋は基本的に分裂しないので、細胞株 (無限に増殖する癌化細胞) が存在しない。したがって、動物から取ってきて初代培養をするか、幹細胞を分化させるかしない限り、心筋細胞を拝むことはできない。後者はもっぱら目的、あるいは結果として作製されるのであって、手段として用いられることはない。心臓の研究に用いられるのはあくまで初代培養細胞である。

我々のラボでは新生児ラットの心臓を材料にする。成体の心筋細胞は培養後の生存率が芳しくないので、生後 2 日程度の新生児を用いる。マウスを使えば様々な遺伝子改変モデルを利用できるが、マウスの新生児、ましてやその心臓ともなるとあまりに小さ過ぎて、実験に必要な細胞の量と質を安定して得るのは難しい。そこでラットの新生児となる。この系は多くの研究室で運用されている。培養心筋細胞の論文を繙けば、"neonatal rat cardiomyocytes" の文字を見付けることができるだろう。

今日は 2 日齢のラット 20 匹から心臓を摘出した。ラット新生児の全長は 100 円ライターほどである。その背中を左手で鷲掴みにして腹側を顕にする。鋏の切っ先を胸皮膚に入れてやると、背中に思いきり引っ張られている表皮が自然に裂け、頼りない筋肉が露出する。薄い胸の下で拍動している心臓の位置を確認したら、そこを少し切ってやる。固まりきっていない肋骨は簡単に切断される。傷口から心臓が——拍動しながら——飛び出してくるので、心室側をカットして PBS に浸ける。開胸場所が悪いと、白っぽい肺や、黒っぽい肝臓も一緒に出てくる。出血も多くなる。こうなると、己の手技の拙さに申し訳ない気持ちになる。心臓を摘出した後のラットは、動物の死骸用の冷凍庫に入れる。因果な作業である。

摘出した心臓を酵素で処理すると、心臓の細胞 (心筋細胞、線維芽細胞、血管細胞、血液細胞など) が剥離してくる。これらを dish で culture すると、翌日には心筋細胞が拍動している様子を見ることができる。当たり前のことだが、この心筋細胞は生きている。実に——、神秘的なことだと思う。神経でも内臓でも皮膚でも同じことだが、心筋細胞はその拍動によって、「生きている」ことが誰にでもわかる。魅せられる所以である。

感謝。