- PCR の話

2005/11/23/Wed.PCR の話

思えば、大学の研究課題で最初に必要になった実験が PCR だったなあ、と回想している T です。こんばんは。

勤労感謝の日

ラボへ。「何が勤労感謝の日だ」と思ってしまいそうになるが、少し落ち着いて考えてみる。例えば自分が学生だった頃、勤労感謝の日に感謝したことが一度でもあったか。……こうして因果は回るのだなあ。

研究日記

Q-PCR
Quantitative PCR の略。「定量的 PCR」とでも訳せば良いか。Real-Time PCR ともいう。PCR 産物をサイクルごとに定量することで、PCR 産物の増加曲線が得られる。プライマーの条件がサンプル間で同一ならば、曲線のシフトは鋳型量の相違を意味することになる。細胞内で転写された RNA の定量などに用いられる。
BigDye
シーケンス反応(塩基配列の決定)に広く用いられている Applied Biosystem 社製の試薬。(メーカー推奨の濃度で使用していると)非常に高価。したがって、ギリギリまで試薬を希釈する試みが各ラボで行われている。シーケンサーが高性能ならば最大 1/64 まで希釈できる、とは営業マンの言。ぼり過ぎやろ。ヒトゲノム・プロジェクトで実際に BigDye が使われていたのかは知らない。

最近、Q-PCR の面白さにハマりつつある。バカな感想で申し訳ないが、一番最初、本当の本当に感動したのは、「PCR ってホンマに 1サイクルで 2倍になるんやなあ」ということ。この事実を視覚的に確認できたのは、何というか、ちょっとしたショックだった。もちろん、実際の解析も楽しいんだけれど。

概念図は頭に入っていても、実際に途中経過を分子レベルで確かめられる実験って、思ったより少ない。見てきたようなイラストはいっぱい溢れているけどね。成分は企業秘密です、という試薬やキットもよくある。ブラック・ボックスは、意外とそのへんに転がっている。

さて、PCR は分子生物学が生んだ最も簡便にして奥が深い技術である、という話はよく聞く。確かにその通りで、PCR の操作は高度に自動化されており、ただ DNA を増やすだけなら誰だって増やせる。そのくせ、どツボにハマるときは徹底的にハマる。鋳型やプライマーの配列、アニーリング温度、反応時間、サイクル数、酵素によって、結果が全く違うということもよく起こる。「PCR なんて余裕余裕」などとナメていると事故に遭い、その奥深さを再認識させられるわけだ。

PCR は、その応用もまた格段に広い。塩基配列の決定、遺伝子のクローニング、変異体の作成、RNA/DNA の定量などなど。「PCR は今年で誕生 20年」という話は以前に書いたが、改めてその事実に驚かされる。

もうちょっと単価が安くなれば言うことないんだけどなあ。ヒトゲノム・プロジェクトでは、いったい何ガロンの BigDye を使ったのだろうか。1リットルの容器に入ったピンク色の BigDye が、フリーザーの中で何本も凍っていたりするのだろうか。恐ろしいな。