- 単位

2005/07/25/Mon.単位

定量的なことは苦手な T です。こんばんは。

単位と定量性

何かを定量的に扱おうと思えば、まずは単位をしっかり定義しなければならない。が、サイエンスの世界においても、それが混乱している場合がある。同じ熱量でも、ある場面では J(ジュール)が使われ、別のところでは kcal(キロカロリー)が使われる。どうにかならんものかと思うが、そこにはやはり理由がある、と俺は推察する。

日本古来の度量衡がそうであったように、単位は、その定量性を人間が想像しやすいように設定されることが多い。例えば、人間が両手を左右に広げた長さを「尋」といっていた。「あの川の幅は 10尋」といえば、「10人の人間が手をつないだ長さだな」となるわけである。正確ではないが、実感しやすい。これが「川幅 18 m」となると話は違ってくる。

「その、メートル、ってのは何だい」
「1 m は、1/299,792,458秒の間に光が真空中を進む距離でさあ」
「……で、18 m ってのは結局どれくらいなのかね?」

我々が容易に 18 m という長さを想像できるのは、単に慣れているからである。日本人は徹底的にメートル法で教育を受けているから(素晴らしいことだ)、マイルやノットという単位が出てきてもピンと来ない。それと同じ。

ジュールでダイエット

タンパク質の立体構造科学という、最も定量的な生物学の分野では、いまだに Å (オングストローム; 10-10 m) が使われている。実はこれ、正式な国際単位ではない。本来なら、nm (ナノメートル; 10-9 m) もしくは pm (ピコメートル; 10-12 m) で記述することが望ましい。にも関わらず、どうして Å が愛されているのか。やはり「使いやすいから」というのが一番の理由だと思う。Å を使えば、だいたいの話は 1〜10 Å の間で済む。これが nm だと 0.1〜1.0、pm だと 100〜1,000 のレンジになってしまい、記述がウザくなる。直感的な理解も低下するだろう。

だから、kcal という単位も必要だと思うわけだ。成人男性が 1日に要求するエネルギーは約 2,000 kcal だが、これは約 8,400,000 J でもある。「840万ジュール」って聞けば、メチャクチャ食えそうじゃない? ひょっとしたら、kcal という単位によって、2,000 前後という想像の及びやすい数字で熱量が示されているから、ダイエットが可能なのではないか。ジュール表示にしたら、途端にダイエットを放棄する人が現れそうだな。そうなってしまうと、栄養学者がどれだけ定量的な研究をしたところで無駄になる。大袈裟に言えば、だが。

正確であったり、よく定義されていたりということも大事だが、そもそもは誰のために単位があるのかという話。