- 鏡の中のキラル

2005/01/11/Tue.鏡の中のキラル

日記を書くために勉強をすることもある T です。こんばんは。

研究日記

吉野家にて朝食。今年 6回目。

気になる公募の面接準備をしたり、修士論文を書いたり、それらに飽きてパソコンで遊んだりしていたら、夕刻からはセミナー。何もせぬまま 1日が終わる。そのくせに眠い。たるんどるなあ。

面接では、OHPによるプレゼンテーションを行わなければならない。OHPシートが切れていたので生協に買いに行ったのだが、予想以上に高価でビビる。30枚で 4千円。思わず「校費で」と言ってしまった。っていうか、プロジェクター使えよ。かの研究所でプロジェクターが使えないとは考えられないのだが、何か理由でもあるのだろうか。

キラル錯体

B氏と交わしたバカ話について書く。

2001年にノーベル化学賞を受賞した野依博士の研究は、「キラル錯体」に関するものであった。キラル (chiral) は「不斉」と訳され、実像と鏡像が重ね合わせられないことを意味する。このような性質 (chirality; キラリティ) を持つ分子をキラル分子、あるいは光学活性分子という。簡単な例を挙げると、四面体構造を持つ炭素原子、その四つの共有結合が別々の原子・分子によって占められるとき、その物質はキラリティを示す。中でもアミノ酸は、生物学徒に馴染みの深い光学活性分子である。

面白いことに、生体内で用いられるアミノ酸は全て L型である(側鎖が H のグリシンを除く)。H を手前にして炭素中心(不斉中心)を上から見たとき、時計回りに COOH、側鎖、NH2 と並ぶアミノ酸が、L-アミノ酸である。L型の鏡像異性体 (enantiomer) は D型と呼ばれる。

アミノ酸がペプチド結合によってつながったものがタンパク質である。タンパク質は、20種類のアミノ酸の配列によって特定の立体構造を示し、その構造がタンパク質の性質・機能を決定する。さて、ここからは妄想である。タンパク質を構成する全てのアミノ酸を D型に置換した場合、そのタンパク質は元のタンパク質の鏡像異性体となるのだろうか? そしてそのタンパク質は生体内で機能するのだろうか?

ちょっと考えれば、転写酵素など(これらもタンパク質である)が正しく DNA を認識しないだろうから、二つ目の質問の答えは、細胞レベルでは「No」であることが推測できる。D-アミノ酸のみを含む培地で大腸菌をカルチャーしても、恐らく生育しないだろう。しかし、一つ目の質問の答えはどうか。何となく「Yes」のような気がするのだが。仮にそうだとして、鏡像異性体どうしのタンパク質間相互作用は成立するのだろうか。つまり、4次構造においても光学活性を示すのか? さらなる高次構造、例えば筋肉繊維の鏡像とかは作れないのだろうか?

そんなことを調べても役に立たないのはわかっているけれど、興味はある。生物や細胞は、色々な意味で「方向性」を持っているが、ひょっとしたらそれは、単なる化学結合の角度によって決まっていたりするんじゃないの、とか。