- 講義はこうでなくちゃ

2003/10/30/Thu.講義はこうでなくちゃ

今週から毎週木曜日の午後はタンパク質の立体構造の講義がある。担当は今年から我が大学に赴任された C先生。タンパク質立体構造解析の専門家である。

俺が研究しているタンパク質は、容易に大量精製できるという元来の性質に加え、カルシウムの結合とともに立体構造を変えるという興味深い特徴を持つため、精力的に構造解析が行われてきた。そういうわけで、俺もタンパク質の立体構造については関心があったし、自分なりに勉強してきたつもりではあったが、いかんせん独学であり、本物の実験現場についても無知である。

タンパク質の立体構造解析には NMR(核磁気共鳴)など幾つかの方法があるが、最も詳細な結果が得られるのは X線による結晶構造解析だと言われている。C先生はまさにこの方法で立体構造を研究されており、希望があれば研究室を案内すると言って下さったので、講義後にお邪魔した。

「これが X線解析装置です」

研究室の中にはどでかいクリーンベンチのようなものがあり、その中にどうやら X線を放出すると思しき装置が据えてある。脇には解析用のパソコンが。

3千万円くらいですかね。一部中古品でまかなってますが」

マジかよ! フルセット新品で買ったら幾らするのか。

性能が低くてねえ。タンパク質の結晶ができたかどうか、それとおよその解像度くらいしかわかりません。良い結晶ができたらR研の装置で解析します。あそこの装置はここの1万倍くらいの放射線で解析できますから」

幾らすんだよ、R研の X線装置は! 次にパソコンに映し出されたデータ(テレビの砂嵐を思い出して頂きたい)を見ながら、

C「これが生データですね。ちょっとノイズが多いですが、これがタンパク質の結晶です」
俺「これですか?」
C「いや、それはノイズです。これです。あ、これもですね」
俺「なるほど、これですね」
C「いや、それもノイズです。その隣の。その右はノイズです」
俺「ははあ、これが結晶で、こっちがノイズ」
C「いやいや、だからこれがノイズで、こっちが結晶」
俺「……」

……素人が手出しするもんじゃねえ。

改めて思い知った、知識と技能は別物だってことを。俺もこれからは論文を読んで「ああアレをこうしてナニしたわけね」などと口走らないようにしよう。「言うは易く、行うは難し」である。昔の人は偉いなあ。